中村宏は1932年9月に静岡県浜松市に生まれました。県内の小学校を卒業し、1951年に日本大学芸術学部美術学科に進学すると、映画学科内で牛原虚彦によってセルゲイ・エイゼンシュテインのモンタージュ論を学びます。また2年後には青年美術家連合の活動に加わり、同会員として第5回読売アンデパンダン展を開くなど、多くの芸術活動に参加していきました。
その後20代前半で日本大学芸術学部美術学科を卒業すると同時に同大学の芸術学部美術研究室へ入り、同じ年には東京・立川の米軍砂川基地拡張反対闘争の参加者の一人となっています。なおその経験を直接『砂川五番』と言う作品によって発表しました。
そして翌年には第2回個展を開き、以降は個展での展示を多く行っていきます。このように単にアトリエで作品を描いて発表、と言うだけでない野外での活動は続き、画家のタイガー立石と共に東京駅エリアで路上歩行展も開催。他には1975年に桑沢デザイン研究所にて務めたり、1982年に東京造形大学に非常勤講師として働くと言ったような経歴もあります。
具象的世界を、突飛な画面構成で描いているといった特徴があります。1950年代にルポルタージュ絵画を代表する画家として地位が高まっていくのですが、作品では、今の社会との関連性を女子学生や望遠鏡。乗り物らしき場所や工場らしき所と、非常に不思議な世界観として表現しているのです。
こう言った不可思議な印象もありますが、図や記号と言った簡略化されたものを画面中に入れるなどして、絵を見た人へのメッセージや会話も意識しています。なお「中村ヒロシ」の名義で児童文学の挿絵も描いています。
中村宏は1950年代当時の事柄を実際に調べ、それをコラージュを使った「ルポルタージュ絵画」と言う作品に反映させ評価されてきました。その作品制作の一環が前述の『砂川五番』として現れているわけですが、当時は日米安全保障条約や対日講和条約が出てきたり、急激な復興による大気汚染問題が発生したりしています。中村宏はそう言った時代の中で感じたものを、批判と言う形で作品に表しているのです。
他にも国際的な絵画の勢いが、抽象絵画を歓迎していたと言う背景もあったりします。とは言え中村宏自身は様々な作風を提示し、例えば現実とは違う世界を示した観念絵画のほか、タブロオ機械と言う画集・模型も提案しているのです。
他の代表作
望遠鏡や一つ目のセーラー服の女学生が描かれた1968年発表の『円環列車・A-望遠鏡列車』(国立東京都現代美術館が所蔵)。
2018年のギャラリー58にて開催された新シリーズ『質感と角度』などがあります。
■セルゲイ・エイゼンシュテインのルポルタージュ
元々のルポルタージュは記録文学や現地レポートを意味し、当時の社会性について説いていました。
映画では複数の素材でさも繋がっているように見せる技法として用いられていましたが、ソ連の映画作家であるセルゲイ・エイゼンシュテインが、作家性と独自の考えを全面に押し出すものとして提案しました。
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