麻田弁自(あさだべんじ)は、1900年12月に京都府南丹市(現在の亀岡市)で生まれました。日本画家の西村五雲のもとで絵を学び、10代の頃には自身で絵を制作していたと言われています。その後10代後半頃には京都市立絵画専門学校に入り、在学中には1921年の帝国美術院展覧会において『洋犬哺乳』が初入選となりました。なおその時はまだ旧姓の“中西辨次”の名前で作品を出品しています。

同校を卒業後は研究科へと進み、1927年には画家・上村松園の弟子の麻田ツルと結婚。この頃から“麻田辨次”の名前で帝国美術院展覧会にて活動を始めました。2年後、西村五雲の開く西村五雲塾晨鳥(しんちょう)社へ入って日本画の技術を学び、描いた作品は同社の展覧会、晨鳥社展で発表しています。そのほか京都創作版画協会を立ち上げたり、版画雑誌の『きつつき』の創刊。日本版画協会会員としても務めるなどして、西村五雲が亡くなった後となる1938年には、山口華楊達と共に新・晨鳥社を立ち上げました。

40代になる頃には初の個展を京都の大丸で開催。また戦後以降は日本美術展覧会が主な活躍の場となり、それからは“麻田辨自”に名を改めています。ちなみにこの日本美術展覧会(日展)では、1950年の第6回日展で発表した『樹蔭』が特選。2年後の1952年第8回日展では『群棲』によって特選と白寿賞を獲得したほか、評議員や参事など要職を歴任しています。

これらの功績が認められ、1974年には京都市文化功労者となり、次の年には京都府美術功労者に認定されました。

そして1984年10月、84歳で息を引き取っています。

麻田弁自は西村五雲から教わった写実表現をベースとしながらも、風景や動植物、時には人物画といったように、幅広い題材を取り上げて作品制作を行っていました。また、木版画も手掛けています。このように様々な種類の作品を手掛け、自身の個性の強い世界観を表しているのが特徴です。構図や色使いがしっかりしているのに対し、優しい筆遣いが印象的な作品が多いといえるでしょう。

とは言え1941年の個展から花鳥画家としての経歴が始まったと言う指摘もあり、今日で知られているのはどちらかと言うと花鳥画家としての名前の方かもしれません。

麻田弁自は、作品として発表していないスケッチも丹念に描いており、これらは一見の価値ありです。

京都府美術功労者になるなど京都を代表する画家の一人となりましたが、在学中は自分の感性を重視して作品を描いてきたようです。そのため学生の時には「基本に忠実に書くように」と注意を受け、麻田弁自自身はそれに素直に従うわけでもなかったので、卒業も危うい時期もあったといいます。

しかし様々な組織の立ち上げや、子供たちは日本画家の麻田鷹司や洋画家の麻田浩といったように、麻田弁自の名は家族と共に現在もしっかりと知れたものとなっています。

他の代表作

版画の代表作として1930年第11回帝国美術院展覧会での発表の『燕子花其』。

1978年発表の『野火』(京都国立近代美術館が所蔵)などがあります。

■西村五雲

1877年に生まれ、日本画家の岸竹堂や竹内栖鳳から教えを受けました。花鳥や動物画を得意としており、生命を感じる生き生きと動作感が作品の特徴です。

また画塾の晨鳥社を立ち上げたり、日本画家の山口華楊を育てています。

■花鳥画

東洋画のひとつとして知られており、花のある草木の中に鳥がいる光景を描いています。日本で流行り始めたのは室町時代の頃からで、それからは一大勢力を持つ狩野派や浮世絵などでも題材として採用されていきました。