漆芸家の白山松哉は1853年、
幕臣の細野重正の子として江戸で生まれました。
腰元彫である能登屋伸三郎から象嵌、錺職を学び
1869年からは蒔絵師小林吉好山に蒔絵を、
その後は蒲生盛和から彫漆、螺鈿の技術を
学んでいます。
21歳からは東京起立工商会に勤めて技を磨きました。
その後34歳のときには
皇居常御殿蒔絵御用も勤めます。
やがて東京美術学校の漆芸科の教授となり、
守屋松亭、鵜沢松月などの優秀な後進を育成しました。
そのほか第4回パリ万国博覧会で銀牌を受賞、
約10年後1900年に行われた第5回パリ万国博覧会では
名誉賞を受賞しています。
これらの実績が認められて、1906年、53歳のときに
漆芸家として柴田是真、川之辺一朝、池田泰真に
次いで4人目の帝室技芸員に任命されました。
白山松哉の作品は蒔絵、螺鈿、塗りの
どれを取っても素晴らしいですが、
中でも精緻な「研出蒔絵」は高い評価を受けています。
「研出蒔絵」は蒔絵の技法の一つですが、
その工程は素地に漆を塗り、絵漆で描画した後、
金粉や銀粉、色粉で蒔いて、
さらにその上から黒漆や透き漆を塗って
消し炭で磨き込み、
描画したデザインを浮かび上がらせるという
手間のかかった高度な技法です。
白山松哉はこの「研出蒔絵」の技法を使い
作品を格調高いものに仕上げています。
また、高蒔絵や肉合研出蒔絵、置平目などの
様々な技巧も駆使されています。
彼の作品には駄作が無いと言われる程
どの作品も完成度が高く、
その妥協の無い創作姿勢が伺い知れます。
蒔絵において白山松哉は、
他の作家とは全く異なる独自性を発揮しており
繊細な線描きで表現されたその作品は
新しい世界観を創造しています。
精緻な研出蒔絵を行い続ける精神力と技術は
高い完成度を誇り、
「白山松哉ほど魅力的な作品を残した蒔絵師はいない」
とも評価されている所以がそこにあります。
白山松哉のその蒔絵技術は
現代漆芸の基礎を築き上げていると言っても
過言ではありません。
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