「木地山系」と呼ばれる秋田県の「こけし」が伝統工芸品の中で「逸品」という評判の一角を占めています。秋田産ならではの素朴のうちに気品も漂うこけしです。ここではこの「木地山系こけし」の由来と特徴をお伝えします。
こけしを作る手工職人は木地師(きじし)から派生したというのが定説です。木地師とは、山に入ってケヤキやトチ、ブナなど、木材を切り出して加工し、木地(きじ)、つまり何も塗らない生地のままの木材で、お椀やお盆などの木製品を作る木工職人のことです。轆轤(ろくろ)を使うので、ろくろ師と呼ばれることもあります。
木地師の起源は9世紀、平安時代に生きた「悲劇の皇子」、惟喬親王(これたかしんのう)の活動であると言われています。惟喬親王がろくろ技術を日本で普及させたからです。そして彼は「木地師の祖」と称されるようになりました。
木地師の発祥の地は旧名、近江の滋賀県です。詳しくは滋賀県愛知郡小椋村、現代の滋賀県東近江市の一部であると言われています。木地師は日本中の山々を渡り歩きながら、ろくろ技術を使って木工品を作るのをなりわいとしていました。
やがてほぼ全国に散らばって各地で定住するように。今でもその地には名残があります。木地山、木地畑などの地名や、小椋、筒井、小倉の姓が残っているのです。
木地師が作る元々の木工品の種類は盆や椀などの調度品でした。木地師たちの中で東北地方の温泉地にやって来た人たちは、江戸時代の文化文政の頃に人々の温泉利用が広まるうちに、その温泉地を拠点にしながら温泉保養客を目当てに木地玩具を作って売り物にして出すようになりました。これが木地山系こけし作りの始まりと言われています。
「木地山系こけし」とは秋田県のこけしのことです。かつての秋田県雄勝郡皆瀬村、今の湯沢市の一部の木地山で小椋氏を中心として作られてきました。使う木材の種類は桜やミヤギミズキ、イタヤカエデなどです。
木地山系こけしの外観の特徴は、下の通りです。
・頭はらっきょう型、胴はずんぐり型
・頭と胴が一体になっている
・菊や梅花や縦縞模様の前垂れ姿
・髪は前髪とびんだけ、又はおかっぱ
・赤い髪飾りが前髪に付いている
全身から受ける印象の代表は「素朴」です。木地山系こけしは腰に前垂れを掛けているのが大きな特徴なので「前垂れこけし」という通称もあります。この前垂れの模様は、初めは菊の花の簡単な紋様だけでした。
魅力があって、静かな人気の続く「木地山系こけし」。機会がありましたら、どうぞご覧になってください。表情も1体ずつ個性がありますので、顔を見比べるだけでも楽しめますよ。
小椋久太郎氏は「現代の名工」と言われ、ずんぐりした胴、作り付けの首、前垂れに梅の花模様をあしらった「木地山こけし」は素朴ながら気品を備えています。