近年、腕時計の複雑化がますます顕著になっています。これらの機能の原点は懐中時計にみられ、18世紀から19世紀に活躍した、カビノチェと呼ばれる時計職人たちがその大半を発明しました。その原点に立つ男が、アブラ・ハム・ルイ・ブレゲです。彼の存在なくして機械式時計の歴史は語れないと言われています。
1775年にパリ・ヴェルサイユの時計職人から独立し、自らの店をオープンしました。最初にした仕事は、自動巻き機構です。この機構はスイスの時計職人ペルレによってすでに発明されていましたが、実用に耐え得る代物ではなく、ブレゲはこの機構に改良を加え、実用化に成功しました。これによりブレゲの名声は王侯貴族にまで鳴り響いたといわれています。
1783年、ルイ16世の王妃マリー・アントワネットから注文された懐中時計の製作では「金額、製作期間の制約は一切なく、出来上がった作品は時計のあらゆる機構を持つ最も優れた、かつ最も美しい時計」という注文を受けたブレゲは、すべての仕事を中断してこの時計製作に没入しました。しかし、フランス革命により王政は廃止に追い込まれ、王党派とみなされた多くの人々も粛正を受けることになりました。
その後1793年、生地のスイスに戻り、トゥールビヨン機構、永久カレンダー機構、レバー式シリンダー脱新機機構、引き打ち機構など、時計学の発展を飾る数多くの発明を誕生させました。
1802年、マリー・アントワネットの注文による超複雑時計が、19年もの歳月をかけて完成。時計学の世界に2世紀分の進歩と発展をもたらしたといわれています。激動の時代に生きた天才時計職人の技術と思想は、毎年ほんのわずかな数だけ誕生するブレゲ・ウォッチのなかに、今もなお生き続けています。
左「クィーン オブ ネイプルズ」
右「トゥールビヨン メシドール」