前史雄は1940年に石川県輪島市で生まれました。
父は沈金を点描で行った事で知られている前大峰であり
前史雄は金沢美術工芸大学で
日本画について勉強したのち、
父から沈金技法について教わっています。
やがて28歳で日本伝統工芸展に出品した作品が
奨励賞を受賞し、以後日本伝統工芸展で
受賞を重ねていきました。
その作品には日本画を学んだ経験が活かされた図案や
角のみ技法など、父であり、師でもある前大峰とは
また違った輪島塗へのアプローチが認められ
1999年、59歳の時に人間国宝として認定されます。
代表作としては沈金棗「清音」や沈金箱「朝陽」
「猫文沈香箱」などがあります。
前史雄は沈金刀を駆使した
斬新な作品が特徴となっています。
金・銀粉の装飾と言った輪島塗の特徴を最大限に活かし
奥深さや温かさもある独自の作風を展開しています。
また前史雄はその学歴から、作品には日本画を思わせる
見事な構成がよく施されます。
日本の自然を描いた風光明媚な雰囲気の作品が多く
それは自然を身近に感じてもらいたい思いからも
来ているようです。
沈金の技法としては線彫や点
こすりに片切り彫りなどがありますが、
前史雄はそれに加え角のみ技法も開発しています。
・沈金
沈金は漆芸の装飾技法の一種です。
漆を塗って乾燥させた素地に、沈金刀やノミを使って
文様を描いていきます。
そこに金箔や金粉を入れていきます。
元は中国の技術が室町時代の日本に広まり
石川県輪島が独自発展させた技法ですが
前大峰の点描によって
今までなかった立体感が生まれました。
・線彫
素彫りとも言われ、下絵を元に
線や点を彫っていきます。
また輪島塗で元々、主流だった技法としても
知られています。
・点描
前史雄の父である前大峰が生み出した技法です。
点状に彫っていく作業ですが
立体感が生まれると同時に沈金ならではの
透明感がより出る技法と言われています。
・擦り
ノミで塗面を擦っていくように削る技法の事です。
・片切り彫り
一方を垂直に彫り、もう片方は斜めに彫る技法です。
・角のみ技法
沈金ノミで削っていく技法です。
点彫、線彫、コスリ彫、片切り彫の
元来の4種の技法に加えて
前史雄が発明しました。
前史雄は現在、母校の金沢美術工芸大学の工芸科で
後輩の指導を行い、さらに作風を深めるために
沈金刀に対する研究を忘れず
新たな沈金刀の提案も行っています。
2002年、62歳の時には紫綬褒章も受章しており
後世への支援と制作活動を絶えず続けています。