1882年に新潟県佐渡郡で生まれた鋳金家佐々木象堂は
初代宮田藍堂に蝋型鋳造を学び
鋳金家を目指しました。
やがて6年程の修行の後に独立し
31歳の時に第一回農商務省展に出品した際には
入選を果たしています。
これを皮切りに佐々木は名を広め
以後日本美術協会展、東京鋳金会展などに
出品した作品は、宮内省の買い上げとなるなど
数多くの展覧会で優秀な賞を受賞しました。
また、文展審査員や
日本工芸美術展の委員依属なども歴任しています。
50代中頃からは新潟県で越後焼窯新潟陶苑を興し
製陶と弟子の育成にも力を注ぎました。
また、60代の頃には真野町に真野山焼窯を構えるなど
一時陶芸にも力を注いでいます。
やがて、1953年からは日本伝統工芸展で
2年連続、出品した蝋型鋳銅置物が
文化財保護委員長賞を受賞し
文化財保護委員会の買上げ作品となっています。
これらの功績が認められ、佐々木は1960年
78歳の時に蝋型鋳造の分野で
重要無形文化財に認定されました。
佐々木象堂の作品には、ろう型鋳金という手法が
しばしば用いられています。
この技術はまず、ロウを原料に竹へらや手で
作品の原型を作るところから始まります。
続いて、鉱物専用の真土で原型を包み込み
高温で焼きあげてロウを鋳型から流出させます。
その後に、できた空洞に溶解した金属を流し込みます。
こうして数時間後、鋳型を割り、流し込んで鋳造された
作品の原型が姿を現すしくみです。
このようにろう型鋳金は、一つの鋳型に対して
一つの作品しか製作できません。
そのため、機械技術の進化が進む中
このような製造工程を経て作品を製作している作家は
現在では多くありません。
しかし一方で、この工程を経て出来あがるろう型鋳金は
製作過程を利用した柔軟な造形ができることが
最大の利点であり、ロウを使用して鋳造する
伝統的な技法として知られています。
そのろう型鋳造の特徴を生かした作品の中でも
1937年に佐々木象堂が製作した「阮咸」は
特に素晴らしい作品として知られます。
漢式琵琶を飛鳥女人が奏でている姿を作品にしており
なめらかで、しっとりとした肌合いの飛鳥美人が
具現化したような出来上がりと称されています。
佐々木象堂は、その生涯で
数々のろう型鋳金の作品を制作していますが
その技術を自身で高い水準にまで引き上げることで
美しい作品を作り上げています。
古来のなめらかな、魅力ある造形、肌合いを具現化し
日本の伝統美の中に西洋のモダニズムを融合させた
高い美の感覚を我々に示してくれました。
このような面が、佐々木のろう型鋳金の技術が
高く評価されている点のひとつでもあります。
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