
もくじ
現代日本画の世界において、静謐で深い精神性を湛えた作品を描き続ける河内成幸という画家をご存じでしょうか?
愛媛県松山市で骨董品の買取を行う私も、数々の日本画に触れてきましたが、河内作品には他の作家とは一線を画す“静けさの中の力強さ”を感じます。
今回は、そんな河内成幸の人物像と作品の魅力、さらに実際に松山市天山の店舗で河内作品を買取させていただいたエピソードを交え、現代日本画の奥深さに迫ってみたいと思います。
河内成幸(こうち・しげゆき、1948年〜)は、静寂と余白の美を追求する現代日本画家として多くの美術ファンに知られています。
東京藝術大学日本画科を卒業後、伝統的な日本画の技法をベースにしながらも抽象表現と精神性を融合させた独自のスタイルを確立しました。
彼の作品は一見すると非常に静かで、墨や和紙といった日本的素材を生かした控えめな色調が特徴です。しかし、画面の中には深い精神的世界、あるいは見る者自身の内面を映し出すような“空気感”が存在しています。
また、河内成幸は“書”の要素を取り入れることでも知られています。作品に流れる筆致や間合い、にじみ、かすれ……それらは単なる「絵」ではなく、まるで視覚化された詩のような存在です。
河内成幸の作品の大きな魅力の一つに、彼が独自に確立した「木版凹凸版摺り(もくはんおうとつばんずり)」という技法があります。
この技法は、通常の日本画や木版画とはまったく異なるアプローチをとっており、木版を使いながら紙の表面に物理的な凹凸を作り出すことで、作品に立体的な陰影やテクスチャーを与えるものです。
つまり、視覚的に絵を見るだけでなく、触覚的な質感や気配までをも表現する、極めて独創的な表現方法と言えるでしょう。
「木版凹凸版摺り」は、墨や顔料を使って摺る際に、木版の彫りの深さや凹凸の形状を巧みに利用し、紙に微細な圧痕(へこみ)を刻む技法です。
その結果、作品には以下のような特徴が現れます:
・光の当たり方によって表情が変わる
・墨のにじみと、版木の物理的な凹凸による二重の奥行き
・筆跡では表現できない“沈黙の動き”が生まれる
・まるで詩の一節のような抑制された美
この技法によって、河内成幸の作品は一見シンプルに見えて、実際には多層的で非常に繊細な構造を持つものとなっています。
代表作の一部をご紹介します:
「翔べ」シリーズ
飛翔するニワトリを描いたこのシリーズは、都会の風景や葛飾北斎の「浪」や「富士」を背景に、飛べないはずのニワトリが力強く羽ばたく姿を表現しています。これは、閉塞感のある社会状況の中で飛び立とうとする自身の姿を重ね合わせたものとされています。
「雷鳴不二」
富士山と雷鳴をテーマにした作品で、自然の持つ壮大なエネルギーと美しさを捉えています。力強い線と色彩で、観る者に強烈な印象を与えます。
「クリスタル北斎」
葛飾北斎へのオマージュとして制作された作品で、北斎の有名な波のモチーフを再解釈し、現代的な視点で表現しています。伝統と現代が融合した独自の世界観が特徴です。
これらの作品は、国内外の美術館やギャラリーで高く評価され、多くのコレクターに収集されています。河内氏の作品は、伝統的な技法に革新を加えた独自性と、深いテーマ性が魅力となっています。
美術品や骨董品の買取において、芸術的価値と同じくらい重要なのが「市場での評価」です。
河内成幸の作品は一部のギャラリーやコレクターの間で根強い人気があり、安定した価格帯での取引が続いています。
査定時に評価されるポイント
・シリーズ作品であること
・制作年が明記されている
・共シール・サイン・共箱などの付属品がある
・保存状態が良好であること
・日本画展・個展等の実績がある作品であること
サイズにもよりますが、小品でも状態や内容次第では数万円〜十万円以上の査定が付くことも珍しくありません。特に1980〜90年代の作品はコレクターに好まれやすく、買取価格にも反映されやすい傾向にあります。
ここで、私が実際に買取した一件をご紹介します。
ある日、松山市天山のイオン内にある店舗にご年配の男性が来店され、「ちょっと見てもらいたい絵がある」と、丁寧に包まれた作品を持参されました。
包みを開けてみると、そこには墨一色で描かれた静謐な抽象画。左下には「成幸」のサイン、背面には共シールとラベル。すぐに本物であることが確認できました。
お客様に経緯を尋ねると、「昔、知人から譲ってもらった作品で大切にしていたが、そろそろ手放す時期かと思って」とのこと。作品への愛着を感じながらも、新たな持ち主へ橋渡しを希望されていたのが印象的でした。
査定ではシリーズの希少性と状態の良さを高く評価。ご納得いただける価格をご提示し無事にお取引が成立しました。
このような出会いこそ、骨董買取という仕事の醍醐味です。
骨董品や美術品は単なる「モノ」ではありません。それらは持ち主の思い出や、贈られたときの背景、日々眺めていた暮らしの一部など、さまざまな“物語”を宿しています。
河内成幸の作品もまた、所有していた方の内面と共鳴しながら、時を重ねてきたのでしょう。
そして次に受け取る人にとっては、まったく新しい物語のはじまりとなるのです。
私たち骨董の鑑定士は、そうした物語を尊重し、未来へと受け継ぐお手伝いをする役割を担っています。
もしご自宅に河内成幸の作品をお持ちで、
・真贋を確認したい
・価値を知りたい
・手放すことを検討している
という方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは愛媛県松山市を中心に、出張買取や店頭買取を行っております。天山のイオン内にある店舗では、その場での鑑定・査定も可能です。
専門知識を持つ鑑定士が、1点1点丁寧に拝見し、真心を込めて対応させていただきます。